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男女賃金差別をともにたたかう会 

      ⇒「雇用差別を許さないネットとやま」に団体名を変更しました。

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裁判報告集(204頁)ができました。

2018年6月24日発行   

ご希望の方は、ご連絡ください。

090-7599-1763 本間

花を持つ少女
 最高裁の上告棄却に抗議する声明

2017年5月 

 

男女賃金差別をともにたたかう会 

共同代表  辻井 秀子 

共同代表  土井 由三 

共同代表  山本夕起子 

 

 最高裁の判断は「棄却」の二文字だった。問答無用の判断に、先ずもって強く抗議する。

 本間啓子さんは職場での女性差別処遇を「納得できない、許せない」。裁判で質すしかないと思い提訴を決意した。

 原審は、「コース別雇用制における総合職と一般職の区別は名ばかりで実質的に男女別の賃金制である」「労働基準法4条違反」と審判したが、基本給の年齢給差額は認めても職能給差額を認めず、実質的な差別の救済を行わなかった。

 理由は、「裁量的判断を伴う人事考課は企業に在り」を前提に、「総合職として処遇されていても主任に昇格していた蓋然性があったと言うことはできず、他にそれを認めるに足る証拠はない」と企業の裁量的判断を強行法規の労基法より優先したことによる。これは、「女の仕事」に対する偏見に基づく判断があったこと、立証責任を全面的に原告に負わせたこと、性中立的・客観的な職務評価を行わなかったことなどによる。

 他にも消滅時効の援用があり、コース制導入後10年の内3年分の差額しか賃金の賠償補償がなされない等、企業に有利な判断法制であり、年金額格差についても一切認められない判決であった。

 このように企業有利の判断では男女賃金差別が温存されるばかりと、最高裁へ上告した。上告理由は、憲法14条(法の下の平等:男女平等権)より企業の裁量権を優先させた高裁の判断は憲法違反であること。併せて、ILO 100号条約の職務評価がなされなかったこと、女性差別撤廃条約の差別撤廃義務および差別からの効果的保護を図る義務を全く無視してなされた原審判断は、憲法98条違反であると主張したが、棄却となった。

 また、上告受理申立では「重要な法令違反」に該当すると主張したが、認めることなく「受理しない」との判断だった。

 私たちは6年余、本間啓子さんとともに闘って、改めて司法に三権分立の基本的姿勢と、ジェンダー視点が無いこと、企業の経済的活動を優先し労働者の人権保障を二の次と考えているなど、社会の動きや変化に全く対応していないことを知ることとなった。

 最高裁の決定に強く抗議すると同時に、さらに女性差別撤廃と全労働者の人権保障を求めて闘い抜くことを決意する。                                   

以上

東和工業事件最高裁決定についての声明

 

2017年5月

(上告人) 本間 啓子

東和工業コース別男女賃金差別裁判 弁護団

 

1 

本年5月17日、最高裁判所第一小法廷は、東和工業コース別男女賃金差別事件について、上告を棄却し、上告受理申立を不受理とする決定をした。

この事件は、コース別雇用管理を適用した結果生じた男女間賃金格差の違法性を問い、賃金格差相当損害金と慰謝料の支払い及び未払いの残業代の請求を求めたものである。

コース別制導入時、東和工業では、男性は全員が総合職に、女性は全員が一般職に振り分けられ、設計職の内、唯一の女性である原告だけが一般職とされた。

原審である名古屋高裁金沢支部は、「東和工業のコース別雇用制における総合職と一般職の区別は名ばかりで実質的に男女別の賃金であり、労働基準法4条に違反する」と男女賃金差別を認定した。そのうえで、不法行為における原告の損害は、「一般職として支払われていた賃金と総合職の賃金との差額である」と判断した。しかし、賃金差額は、基本給の内年齢給だけを認め、職能給は認めず差別救済の対象から除外した。

その他にも、原告が控訴理由とした一審の消滅時効、退職金差額についての判断の誤りを認めず、原告が控訴審で追加請求した年金格差相当の損害も認めなかった。

請求額約2,200万円に対し、年齢給差額(時効適用により3年分)、慰謝料、弁護士費用、残業未払い分及び付加金、退職金差額の合計として約449万円の賠償を命じた。

今般最高裁は、この名古屋高裁金沢支部判決(原判決)に対して、原告が申立てていた以下の上告理由や上告受理申立の理由をいずれも排斥して、原判決を確定させた。

原判決は、職能給格差について、人事考課には裁量的判断が伴うことを理由に、「控訴人が一般職としての主任に昇格したからといって、総合職として処遇されていれば当然に主任に昇格していた高度の蓋然性があったということはできず、他にそのような蓋然性が存在したことを認めるに足りる証拠はない。」とし、さらに、「職能給の差額に相当する損害が生じていること自体を認めることができない」と判示した。

職能給差額について差別を認めず、救済の対象から除外したことは、労働基準法4条及び13条の基本的趣旨を踏みにじるものであり、担当職務の評価を怠ったうえに、企業の裁量を聖域化して強行法規である差別禁止規定を劣後させたことは、性差別賃金の解消という司法に課された責務を放棄するものである。

(1)

 原判決が職務の違いを理由に具体的な格差を判断する共通の基礎に欠けるとして請求を棄却したのであれば、ILO100号条約を批准した今日において、条約が求める性中立的・客観的な職務評価を介する必要があるところ、それを欠落させたことは、条約の要請に反している。また、憲法14条1項が保障しようとしている平等権保障の内容は、この条約の趣旨を踏まえて解釈されるべきであるから、憲法14条1項の趣旨にも違反している。性中立的・客観的な職務評価基準なしに判断しないよう、職務評価制度を確立すべきである。

(2)

女性差別撤廃条約を批准した今日において、日本国憲法14条1項で保障する平等権確保と差別撤廃は、国が女性が差別によって被る不利益を実質的かつ具体的に回復させるようにする義務=差別撤廃義務を負担し、これには「女性差別からの効果的保護」を図る趣旨のものであると解すべきところ、原判決の職能給格差を認めない判断は「差別のやり得」を許すもので、差別からの効果的保護を求める前記憲法条項に反している。女性差別撤廃条約を批准しそれが発効したという事実が、反映されていない結果となった。性差別賃金であると判断したからには、賃金格差の全額を是正し、あるいは将来にむかって格差を是正する措置を講ずるべきである。現行制度は差別の救済に重大な欠陥があることから、もっと救済しやすい制度に変える必要がある。

(3)

 企業の裁量的判断をある程度尊重するとしても、労基法4条違反の賃金差別(年齢給)をしたとの認定を自らが下した企業にまで、「職能給格差」の判断において、企業の裁量を認めることの不当性は甚だしい。損害は年齢給にも職能給にも反映される。企業の裁量的判断をある程度尊重するとしても、男女差別の法違反を行っていない場合に限るべきである。法整備の必要がある。

(4)

原判決は「原告は男女差別により一般職となった」ことを自らが判断したにもかかわらず、性中立的・客観的な職務評価を行わず、「総合職のほうが一般職より高い職務遂行能力が求められる」とし、企業の裁量を根拠に、「控訴人が一般職としての主任に昇格したからといって、総合職として処遇されていれば当然に主任に昇格していた高度の蓋然性があったということはできず・・」と総合職主任への昇格の高度の蓋然性を否定した。この判断に、裁判官の女性の仕事に対する偏見や固定観念が反映されている。これでは、差別待遇が是正されず、差別の強化につながる。

(5)

原判決によれば、総合職と一般職の職能給格差があってその違いは男女別であるというのであるから、裁判所は使用者側に職能給格差が性別とはいえない他の合理的根拠を示すよう求めるべきである。使用者側がその主張立証責任を尽くせない時は、格差は性差別によるものと判断すべきである。

しかし、高裁は、何一つ使用者側に問うことなく、証拠によって十分に支えられているとは言い難い使用者の主張を無批判に受け入れ「一般職としての主任に昇格したからと言って、総合職として処遇されていれば当然に主任に昇格していた高度の蓋然性はない」などと判断した。立証責任のあり方を、誰が、何を、いかなる証拠により、どの程度証明すればよいかという観点からのルール化の必要性が課題である。

(6)

原告は、原審の「職務内容」についての判断に明らかな矛盾と著しい事実誤認があると訴えた。原審は、基本給の年齢給部分については、会社の「原告の技能レベルが低いから一般職にしたとする」主張に合理的な根拠はなく違法であるとし、会社に差別の是正を命じた。ところが、基本給の職能給部分については、仕事ぶりについて、図面作成について応用が効かず、細かく指示を与えないとできないなどとする会社の主張をまるのみにして、男女差別を認めなかった。この判断にもジェンダーバイアスが反映されている。また、何が事案の真相であるかを見抜く洞察力がない、事実を的確に認識し、把握し、分析する力を持たない裁判官は、資質に欠ける。公正さを欠く判決に抗議する。

会社の「消滅時効援用は権限の濫用」であると認めなった原判決が確定したことは、理不尽である。少なくとも、男女賃金差別を認定したならば、差別からの救済の視点から、消滅時効の適用はするべきではない。過去の多くの賃金差別裁判でも、消滅時効により救済の制限がなされている。差別されてきた苦しみの上に、本来差別がなければ支払われていたはずの賃金が賠償されないことは、大きな問題である。差別企業の差別のやり得にもなる。法整備の必要がある。

「年金額格差」について、一切認めなかった原審が確定した。賃金格差は年金額格差に連動する。将来にわたって差別を負っていくことになるし、将来の貧困につながる。差別からの救済について全面的に見直し、もっと救済しやすい制度に変える必要がある。

最後に

「労基法4条違反」と男女賃金差別を認定しながら、差別からの救済を不十分にしかなし得なかった司法の現状に強く抗議するとともに、私たちは、今後も、女性差別の撤廃に向けた取り組みを一層進める決意を新たにする次第である。

 

以上

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